人手不足なのに、なぜ求人サイトは苦戦するのか?ディップの決算で考える

公開日:2026/10/23

はじめに

「人手不足」という言葉をよく聞きます。お店や会社が人を採りたがっているなら、求人サイトの会社は儲かっていそうです。

ところが2026年10月13日、アルバイト求人サイト「バイトル」を運営するディップは、今期の業績予想を引き下げ、最大で27億円の最終赤字になる可能性があると発表しました。

人手不足なのに、なぜ求人サイトは苦戦しているのでしょうか。そして、赤字になりそうなのに、なぜ広告にお金をかけ続けるのでしょうか。会社の決算短信を手がかりに考えます。

何が起きたのか

ディップの決算期は2月です。10月13日に発表したのは、今期の前半(2026年3〜8月、「中間期」と言います)の成績です。

本業のもうけは、ほぼゼロになりました。あわせて、通期(2026年3月〜2027年2月)の予想も引き下げています。

※ディップ「2027年2月期 第2四半期(中間期)決算短信」と業績予想修正のお知らせより。億円未満は端数処理。△はマイナス(赤字)

予想に幅があることにも注目です。一つの数字ではなく「赤字かもしれないし、黒字かもしれない」という幅で示しているのです。この理由は後で考えます。

求人サイトはどう稼いでいるか

求人サイトは、仕事を探す人は無料で使えます。お金を払うのは、求人を載せたい企業やお店の側です。掲載する期間や目立ち方に応じて、「求人広告」の料金を受け取る仕組みです。

ディップの売上の内訳を見ると、この求人広告が約8割を占めています。

※決算短信のセグメント情報より。前年比と割合は筆者が計算したものも含む

つまり、「求人広告を出してくれる企業の数」と「1件あたりの料金」が、売上を大きく左右します。また、企業への広告の販売は自社の営業だけでなく、代理店を通じても行われています。

もう一つ大事なのは、企業が広告を出したいのは「求職者がたくさん集まるサイト」だということです。サイトの価値は、どれだけ多くの求職者を集め、応募につなげられるかで決まります。

なぜ苦戦しているのか

決算短信で、会社は売上が落ちた理由として次の3つを挙げています。

※「会社の説明」は決算短信の表現。「意味」は筆者の言い換え

ここが、はじめの問いへの答えです。会社の説明に沿えば、苦戦の理由は「人を採りたい企業が減ったから」ではありません。「求職者をめぐる競争が激しくなり、広告の値段も下がっているから」です。

人手不足だからこそ、企業は「より効率よく人を採れる方法」を探します。求人サイト同士だけでなく、採用の方法そのものが競争相手になり得る、というのが筆者の見方です。市場が大きくても、そこで勝てるかは別の問題なのです。

赤字でも広告を増やす理由

今回、売上は33億円減りました。費用が前年と同じだったとしても、前年に54億円あった本業のもうけは計算上約21億円残ります。それがほぼゼロになったのは、費用も増えていたからです。増えた費用の大半は、広告宣伝費(約10億円増)と給料手当(約7億円増)です。

※決算短信の中間連結損益計算書と半期報告書(販売費及び一般管理費の主要な費目)より筆者作成。億円未満は端数処理。売上原価の増加(約2.5億円)は省略

決算短信によると、会社は5月から広告への投資を強め、営業力を高めるために新卒社員の採用やオフィスの拡張も行いました。その結果、「応募数の増加」や「契約社数のプラス成長への転換」といった改善の兆しが見えているとしています。そのうえで「今期の戦略的投資でシェアを拡大し、来期の売上・利益を成長軌道に戻す」と述べています。

これは「先行投資」と呼ばれる考え方です。今は利益を犠牲にしても、求職者を集めてサイトの価値を高め、将来の売上につなげようという判断です。通期の予想が「赤字かもしれないし、黒字かもしれない」という幅になっているのも、広告の効果がどこまで売上に戻ってくるかを会社自身も読み切れていない表れと読めます。

先行投資が実を結ぶかどうかは、まだわかりません。ただ、「赤字=失敗」とは限らず、その裏にある経営の意図を読むことが大切です。

このニュースに関わる仕事

求人サイトの会社には、さまざまな仕事があります。今回の決算に出てきた「営業」「広告」「代理店」も、それぞれに担う人がいます。

人材業界は、「人と仕事をつなぐ」仕事です。そのなかでも求人サイトは、求職者と企業の両方に選ばれなければ成り立ちません。就活で人材業界を見るときは、「どちらの側にどう価値を出しているか」に注目すると、会社ごとの違いが見えてきます。

おわりに

「人手不足なのに求人サイトが苦戦する」という一見矛盾した状況も、決算短信を読むと、競争と値段の問題だとわかります。最後に、考えてみてほしい問いを2つ置いておきます。

  1. あなたがアルバイトを探すとき、どんな方法を使いますか。その方法は、求人サイトにとって競争相手になり得るでしょうか。
  2. あなたが経営者なら、売上が落ちているときに「広告を増やして取り返す」「費用を抑えて利益を守る」のどちらを選びますか。その理由は何ですか。

本記事は、企業が公開した決算資料に基づく業界研究のための解説です。特定の株式の売買を勧めるものではありません。会社の予想は発表時点の見通しで、結果を保証するものではありません。

出典

※前年比の一部、売上に占める割合、費用の増減額は、決算短信の数値から筆者が計算

インプロ・キャリア編集部
執筆者:インプロ・キャリア編集部

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