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不動産会社と学習塾。一見、あまり関係なさそうな組み合わせです。
2026年10月13日、不動産大手のヒューリックは、個別指導塾「TOMAS(トーマス)」を運営するリソー教育グループを、TOB(株式公開買付け)で完全子会社にすると発表しました。ヒューリックはすでに株の約半分を持っていますが、残りもすべて買い取ろうというのです。
なぜ不動産会社が塾を買うのでしょうか。そして、すでに半分持っているのに、なぜ100%にしたいのでしょうか。会社の開示を手がかりに考えます。
今回のTOBの主な条件は次のとおりです。
価格はすんなり決まったわけではありません。ヒューリックは9月に240円を提案し、リソー側の特別委員会(親会社から独立した立場で、一般の株主の利益を守るための委員会)が引き上げを求めた結果、260円、280円、290円、295円と段階的に上がりました。親会社が子会社を買うときは、一般の株主が不利な価格を押し付けられないように、こうした交渉の仕組みがあるのです。
ヒューリックは、都心のオフィスビルなどを持ち、貸すことを中心とする不動産会社です。リソー教育グループは、個別指導塾「TOMAS」や、学校向けの支援事業「スクールTOMAS」など、幼児教育から大学受験まで幅広い教育サービスを提供しています。
ヒューリックは、今回突然塾を買うわけではありません。数年かけて教育事業との関わりを深めてきました。
さらにヒューリックは、教育に特化したビル「こどもでぱーと」を展開しています。首都圏で3棟が開業済みで、2029年までに約20棟に広げる方針です。
開示では、完全子会社にした後に進める施策として、次のようなものが挙げられています。
ここからは筆者の見方です。不動産会社にとって、ビルの価値を決めるのは「どんなテナント(入居者)が入るか」です。人気の塾が入るビルには子どもや親が集まり、ビル全体の魅力が高まります。一方、塾にとっても、立地の良い場所に教室を出せることは大きな強みです。「場所を持つ会社」と「人を集める中身を持つ会社」が組むことで、互いの強みを生かせる、というのがこの組み合わせのもう一つの読み方です。
このように、異なる事業を組み合わせて生まれる効果を「シナジー(相乗効果)」といいます。M&Aのニュースでは、「この2社が組むと何が生まれるのか」を考えると、買収の狙いが見えてきます。
ヒューリックはすでに株の約51%を持ち、リソー教育を子会社にしています。それでも100%を目指すのはなぜでしょうか。
親会社も子会社も上場している状態を「親子上場」といいます。開示では、この状態の問題点として次の点が挙げられています。
ヒューリックは、リソー教育が人件費や賃料の上昇に十分なスピードで対応できず、同業他社に比べて業績が劣っていると認識している、と開示に書かれています。そのうえで、抜本的な施策を素早く実行することが欠かせない、というのがヒューリックの判断です。
一方、リソー教育が同じ日に発表した中間決算(2026年3〜8月)では、営業利益が前年同期の2倍を超え、売上高・利益ともに中間期として過去最高でした。前年同期に利益が大きく落ち込んでいたところからの回復です。リソー側の特別委員会は、こうした足元の業績改善が価格に十分反映されていないとして、引き上げを求めていました。
親子上場は、親会社と一般の株主の利益がぶつかりやすい形だと指摘されることがあります。今回の開示でも、こうした利益相反への対応や開示の負担が増えていることが、完全子会社化の理由の一つに挙げられています。
今回のニュースには、不動産、教育、M&Aのそれぞれの仕事が関わっています。
不動産業界は「建物を建てて貸す」だけでなく、「そこに何を入れて人を集めるか」まで考える仕事でもあります。就活で不動産会社を見るときは、その会社がどんな事業と組んでいるかにも注目すると、会社ごとの個性が見えてきます。
不動産会社が塾を買う背景には、「場所」と「中身」を組み合わせる狙いと、「親子上場をやめて素早く動きたい」という経営判断がありました。最後に、考えてみてほしい問いを2つ置いておきます。
本記事は、企業の公式開示と報道に基づく業界研究のための解説です。TOBへの応募や、特定の株式の売買を勧めるものではありません。
※前年比の一部、売上に占める割合、費用の増減額は、決算短信の数値から筆者が計算