政策保有株とは?就活生にもわかる基礎知識

公開日:2025/05/01

近年、多くの日本企業が政策保有株の売却を進めています。その背景には、コーポレートガバナンスの強化や資本効率の向上といった経営上の課題があり、これに対応するための動きが加速しています。本レポートでは、政策保有株売却の背景、具体的な事例、投資銀行の役割について説明できればと思います。

政策保有株売却の背景

政策保有株とは、企業が取引関係の維持や業務提携の強化などの目的で保有する株式を指します。しかし、近年はこの慣行に対して批判が強まり、売却が進められています。その主な背景として、以下の要因が挙げられます。

コーポレートガバナンスの強化

2015年に導入された「コーポレートガバナンス・コード」は、企業に対し政策保有株の保有目的や合理性を明確に説明することを求めました。2021年の改訂では、さらに厳格な基準が導入され、毎年の保有合理性の検証や売却の促進が求められるようになっています。

海外投資家からの圧力

日本企業の株主構成を見ると、海外機関投資家の比率が高まっています。海外投資家は、政策保有株を「資本の非効率的な利用」として問題視し、株主価値の向上を求めています。2022年の東京証券取引所の市場再編では、プライム市場上場企業に対し、資本コストや株主価値の向上が求められるようになりました。

資本効率の向上

政策保有株は配当や売却益が少なく、資本の効率が悪いとされています。企業は、政策保有株を売却することで資本をより有効に活用し、株主還元(配当や自社株買い)や成長投資に資金を回すことが可能となります。

敵対的買収リスクの低下

かつては持ち合いによる安定株主の確保が敵対的買収の防衛策となっていました。しかし、近年ではポイズンピルなどの防衛策が普及し、企業価値向上自体が最良の防衛策とする考え方が広まっています。そのため、政策保有株の必要性が低下しています。

取引関係の変化

以前は株式を持つことで取引関係を維持する慣行がありましたが、現在は市場原理に基づく取引が一般的になり、持ち合いの必要性が減少しています。

政策保有株売却の具体的事例

政策保有株の売却は、さまざまな企業で進められています。以下に具体的な事例を紹介します。

トヨタ自動車の事例

2023年11月、トヨタ自動車はグループ会社である豊田自動織機、アイシン、デンソーの株式の一部、総額約6,700億円分を売却すると発表しました。この決定は、資本戦略の一環として政策保有株の保有目的を見直し、必要以上に保有しない方針を採用したことによるものです。

大手損害保険会社の事例

2024年2月、東京海上ホールディングス、SOMPOホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングスの大手損害保険会社3社は、政策保有株を削減する方針を明らかにしました。例えば、東京海上ホールディングスはトヨタ自動車や三菱商事など約1,000社の政策保有株を保有しており、2029年度末までにこれらをゼロにする計画を発表しました。

山善の事例

工作機械や工具の専門商社である山善は、2023年12月にみずほ銀行や三菱UFJ銀行などが保有していた山善株を売却すると発表しました。発表翌営業日には株価が一時的に下落しましたが、中長期的には資本効率の向上やガバナンスの改善が評価され、株価は上昇傾向を示しています。

政策保有株売却における投資銀行の役割

政策保有株の売却において、投資銀行(特に、ECM部門、カバレッジ部門)は大きな役割を果たします。

投資銀行は、機関投資家、事業会社、ファンドなど適切な買い手を選定し、売却交渉を行います。敵対的買収リスクを考慮し、適切な売却先を見極めることも重要な役割です。また、大量の政策保有株を売却すると、株価の下落リスクが高まるため、どのタイミングで、どのくらいの量を売るかに関する戦略などを練ります。

政策保有株に関する本として、元ゴールドマン・サックスの清水さんによる「資本主義の中心で、資本主義を変える」という本も興味深いので、お時間ある方は読んでみるのもおすすめです!



この記事はここまでですが、少しでもこれから就職活動を始める方々の参考になれば幸いです。また、他のライターによる興味深い記事もあるかと思いますので、就活の息抜きにでも読んでいっていただけると幸いです。

みやじ
執筆者:みやじ

受けていた業界/企業:外資系投資銀行投資銀行部門(就職予定)・外資系戦略コンサルティングファーム

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