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マルチプル・エクスパンション(Multiple Expansion)は、企業の収益や利益が変動しないにもかかわらず、株価収益率(PER)や企業価値倍率(EV/EBITDA)などの指標が上昇する現象を指します。これにより、企業価値が向上することになります。企業価値は一般的に、「利益 × マルチプル」で算出されるため、利益が変わらなくても、マルチプルが上昇することで企業の評価が引き上げられ、企業価値が増加します。簡単に言うと、投資家が将来の成長性や市場環境の改善を期待することにより、企業の評価が上がるということです。
マルチプルエクスパンションが起こる要因は複合的ですが、一例として以下が挙げられます。
市場環境の改善は、マルチプル・エクスパンションを引き起こす主要な要因の一つです。金融緩和や金利低下などが市場に大きな影響を与え、投資家のリスク許容度を高めます。このような環境では、株式市場全体のバリュエーションが上昇し、企業のマルチプルも引き上げられる傾向にあります。例えば、金利が低くなることで、将来の利益の現在価値が高く評価され、企業価値が上昇することがあります。
企業の成長期待が高まると、投資家はその企業に対して高い評価を与えます。新規事業の成功や海外展開、技術革新などが期待される場合、企業の未来の成長性がより大きく見積もられ、マルチプルが上昇します。また、企業が収益モデルの革新を図った場合、特にサブスクリプションモデルや定期収益の安定性が増すと、投資家の評価が向上し、マルチプルが引き上げられます。
特定の業界全体の評価が向上することも、マルチプル・エクスパンションを引き起こす要因となります。例えば、ITやAI関連分野が注目を集めると、これらの業界全体のPERやEV/EBITDAが上昇することがあります。特に技術革新や規制緩和などが要因となる場合、業界全体の成長が期待され、個別企業のマルチプルも上昇しやすくなります。
企業がM&A(企業買収)を行い、シナジー効果が発現することで、将来的な収益の増加が期待されると、マルチプルが上昇することがあります。また、経営改革や事業再編が進展することによって、企業の将来性が高く評価され、マルチプルが引き上げられます。これにより、企業価値が向上し、投資家が高い評価を与えることになります。
日本市場においても、過去にいくつかの時期にマルチプル・エクスパンションが見られました。特に以下の期間に顕著なエクスパンションが発生しました。
1980年代後半、プラザ合意後の円高是正を目的とした金融緩和政策により、過剰な資産流動性が市場に供給され、株式市場は急騰しました。この時期、企業の実際の業績以上に株価が上昇し、PERが高くなり、マルチプル・エクスパンションが顕著に現れました。特に1989年12月には日経平均株価が38,915円を記録し、バブルの頂点を迎えました。
1999年頃から2000年にかけて、インターネット関連企業の急成長に対する期待が高まり、ITバブルが発生しました。これにより、日本でも新興企業の株が急騰し、PERが非常に高い水準に達しました。しかし、実体経済の成長が追い付かず、バブルが崩壊するとともに、株価は急落しました。
2012年末から始まった「アベノミクス」による経済政策の影響で、日銀の大規模金融緩和が実施され、投資家の期待が高まりました。これにより、2015年には日経平均株価が約20年ぶりに20,000円を超えました。この期間には、企業業績の改善に加えて、投資家の期待感が高まり、マルチプル・エクスパンションが進行しました。
2020年3月の新型コロナウイルスの影響で市場は急落しましたが、その後、世界的な金融緩和や経済対策が行われ、株価は急速に回復しました。特に低金利環境と市場の流動性増加が背景となり、2021年には日経平均株価が30,000円を超え、マルチプル・エクスパンションが進行しました。
マルチプルエクスパンションの概念がジョブなどで直接役に立つことは少ないかと思いますが、面接で話す予定の企業のヒストリカルマルチプルを見て、どのように推移してきたのか、それはなぜなのかを考えたり、ファンド案件の売買でマルチプルはどのように変わったのかなどを調べてみると面白いかもしれません!この記事はここまでですが、少しでもこれから就職活動を始める方々の参考になれば幸いです。また、他のライターによる興味深い記事もあるかと思いますので、就活の息抜きにでも読んでいっていただけると幸いです。