富士ソフト買収の『2段階TOB戦略』とは?実例から理解する

公開日:2025/06/28

富士ソフトの案件は、日本のM&A市場において、アクティビストの影響力の拡大や、外資系投資ファンドによる企業買収の活発化を象徴する事例となりました。また、日本市場では珍しい敵対的TOBが行われそうになったりするなど、話題を呼びました。

TOBを巡る一連の流れ

富士ソフト1の記事以降、2024年12月にはベインキャピタルがKKRを上回る価格である9,600円での買収提案をしました。しかし、KKRは2月、富士ソフトへのTOB価格を従来の1株当たり9451円から9850円に引き上げると発表し、ベインキャピタルが対抗TOBをしなかったことから、そのままTOBが成立し、終止符を打ちました。プロセスの最中では、KKRは、ベインキャピタルが富士ソフトとの秘密保持契約に違反し、同社から提供された秘密情報を不正に使用し続けていると主張するなど、価格以外の部分でも激しい競争が行われていました。また、KKRを支持する富士ソフト経営陣と、ベインキャピタルを支持する富士ソフト創業家の対立も明らかとなりました。

2段階TOB戦略に関して

今回KKRが勝てた要因は様々あるものの、その中の1つには、2段階TOB戦略があるのではないかと思います。

2段階TOB戦略とは何か

TOBを2回に分けて行う戦略で、株主に対して段階的に株式を買い付けることを目的としています。

第一段階:主要株主からの株式取得 最初の段階では、対象企業の株式のうち、主要株主(例えば、経営陣や大口投資家)から株式を買い取ることを目指します。この段階では、主に大株主が対象となり、買付け価格や条件についての交渉が行われます。第一段階の目的は、まずは企業の支配権を確保することです。これにより、TOBが成功した場合に経営権が確実に手に入る状態を作り出します。

第二段階:一般株主からの株式取得 第一段階での株式取得が完了した後、次に一般株主(通常の個人投資家や小口株主)から株式を買い取る段階に進みます。第二段階では、第一段階の結果を踏まえた上で、株式の買付けが行われ、最終的に目標とする株式の取得比率(例えば、過半数以上)が達成されることを目指します。

富士ソフトTOBにおける2段階戦略の具体例

富士ソフトのTOBにおいて、KKRが採用した2段階TOB戦略は、以下のような流れで進められました。

第一段階(主要株主からの取得)
KKRは最初に富士ソフトの大株主(例えば、シンガポールの投資ファンドなど)との交渉を進め、その株式を買い取ることを目指しました。これにより、KKRは過半数の株を取得することはできなかったものの、合計で30%を超える株を集めたため、ベインキャピタルによる逆転を困難にしました。いくらベインキャピタルがKKRよりも高い価格を提示できたとしても、株が集まらなければTOBは成立しません。第一段階を設けて、とりあえず株を集めたことが功を奏したと言えるでしょう。

この第一段階目を可能にしたのが、応募契約の存在です。KKRが運営するFK株式会社は、富士ソフトの大株主である3D Investment Partnersと応募契約を締結し、取締役会のTOBへの賛成が得られるなど諸条件が揃う限り、KKRのTOBに応募するという契約を締結していたことで、KKRはTOBの初期段階で大きな株式比率を確保することができました。

応募契約の中身などは、インターネット上で公開されている、公開買い付け書などに記載があるので、参照されても良いかもしれません。また、プロセスの中でベインキャピタルやKKRが声明を多く出しているので、そちらも見てみると勉強になるかもしれません。

第二段階(一般株主からの取得)
第一段階での支配権確保後、KKRは、ベインキャピタルを上回る価格を提示し、一般株主向けに株式の公開買付けを行い、より多くの株式を取得しました。これにより、最終的に富士ソフトの過半数以上の株式を取得し、完全に企業を買収することを目指し、成功させました。

富士ソフト1の記事も合わせてご参照いただけると幸いです!この記事はここまでですが、少しでもこれから就職活動を始める方々の参考になれば幸いです。また、他のライターによる興味深い記事もあるかと思いますので、就活の息抜きにでも読んでいっていただけると幸いです。

みやじ
執筆者:みやじ

受けていた業界/企業:外資系投資銀行投資銀行部門(就職予定)・外資系戦略コンサルティングファーム

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