今回はSOLVE5期生(25卒)の方にご参加いただき、外資系投資銀行投資銀行部門の選考に関連して、M&Aの具体例に関するレポートを作成しました。27卒の方やSOLVEに入会を希望される方のご参考になれば幸いです。
富士ソフトの買収を巡っては、「前代未聞のファンドによる争奪戦」などと題打って、ビジネス界では、大きな話題となりました。ここでは、その経緯や、どのような論点が問題となったのかを見ていきたいと思います。ちなみにですが、アクティビストが出している株主提案資料や、株主提案資料に対しての会社からの回答は、インターネット上で誰でも見ることができます。個社の財務情報に対する分析が見られるので、面白いかと思います!
組込系/制御系ソフトウェア開発と、流通業・製造業・金融業などに代表される業務系システムインテグレーションサービスを提供する会社です。端的に表現すれば、エンジニアを抱える企業で、クライアントの要望に応じて、ソフトウェアの設計や運用、コンサルティングに至るまで様々な仕事を請け負います。
富士ソフトは、4年以上にわたって、アクティビストファンドである3Dインベストメント・パートナーズに株を持たれてきました。今年2月時点で、3Dインベストメント・パートナーズの保有率は20%を超えていました。
3Dインベストメント・パートナーズは、2022年あたりから、富士ソフトに対して、保有不動産の売却などを含む株主提案を続けてきました。富士ソフトは、創業者が自社ビルにこだわっている背景もあり、地上31階建ての秋葉原ビルだけでなく、横浜や錦糸町、名古屋にも自社ビルを持ち、保有物件の簿価は1,000億円にも上ります。2024年に入っても、汐留や博多でビルを新築し、不動産会社なみの潤沢なポートフォリオを持っていました。しかし、金融的な見方をすると、それがROIC(Return on Invested Capitalの略で、企業が事業活動のために投じた資本に対してどれだけ利益を生み出したかを示す財務指標)を下げているとして、アクティビストファンドは、売却を求めていたのです。今年に入って、圧力を受けた富士ソフトは、合計80億円程度の不動産を売却しました。
この時点で、株価は2022年当時に比べて2倍程度に上がっていたため、アクティビストのリターンとしては十分ですが、更なる株価上昇を目論む富士ソフトは、非公開化を主張し、非公開化プロセスを進めました。
3Dインベストメント・パートナーズが主導するオークションに勝った、PEファンドであるKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が、2024年8月、1株あたり8,800円の買い付け価格を市場に対して提示しました。このまま何事もなく買い付けが成功するかと思われましたが、その後、オークションに参加していなかったPEファンドであるベインキャピタルが1株あたりKKRの価格を上回る9,450円の買い付け価格を提示しました。
KKRは、ベインキャピタルによるこの提案を受け、急遽TOBを2段階にすることを発表しました。1段階目では、ベインキャピタルによるTOBが開始される前に、応募契約を結んでいた大株主の3Dインベストメント・パートナーズやファラロンからの応募分を確保します。そして、2段階目では、一般株主にベインキャピタルのTOBの成立可能性を考えてもらいつつ、一般株主からの応募を集める作戦です。
1回目のTOBでは、大株主の3Dインベストメント・パートナーズやファラロンからの応募分などにより、富士ソフト株の3分の1を超える株式を取得しました。
2回目のTOBでは、ベインキャピタルの9,450円提案の存在を受けて、KKRはTOB価格を引き上げざるを得ない状況となり、9,451円での2回目のTOBが開始されました。ベインキャピタルの9,450円提案には富士ソフトから反対表明が出されたため、KKRによる買収が完了するかと思われましたが、2024年12月には再びベインキャピタルが9,600円での買収提案をし、先行きは見通せない状況になっています。
普通に考えれば、より高い金額を提示したベインキャピタルが買収に成功するのでは?と思われるかもしれませんが、そうは行かない事情がいくつかありました。次の記事では、その背景や、なぜ富士ソフトがこんなにも人気なのかを私なりにまとめてみたいと思います。
この記事はここまでですが、少しでもこれから就職活動を始める方々の参考になれば幸いです。また、他のライターによる興味深い記事もあるかと思いますので、就活の息抜きにでも読んでいっていただけると幸いです。
WRITER:みやじ
外資系投資銀行投資銀行部門(就職予定)・外資系戦略コンサルティングファーム